2012年6月23日土曜日

赤い蝋燭ー新美南吉

ある時、里の方へ遊びにいった猿が一本の赤い蝋燭を拾い、山へかえってきました。ですが、猿は花火というものを多く見ていたわけではない為に、この蝋燭を花火だと思い込んで、他の動物達に話してしまいます。そして他の動物達も、この赤い蝋燭を花火として扱っていき、興味をもって覗いていました。ところが、蝋燭をすっかり花火だと思い込んでしまっている猿が、「危い危い。そんなに近よってはいけない。爆発するから」と言った為に、一同は蝋燭を恐れてしまいます。しかし、花火というものの美しさをどうしても見たい動物たちは、どうにかして蝋燭に火を灯そうと奮闘しはじめます。果たして彼らは無事、蝋燭に火を灯す事ができるのでしょうか。

 この作品では、〈蝋燭という未知の物に対して、好奇心と恐怖から右往左往する動物たち〉が描かれています。

 この作品に登場する動物たちは、蝋燭を拾ってきた猿から、2つの情報を与えられます。ひとつは、これは花火であり大きな音を出して飛び出し、美しく空に広がるということ。そしてもうひとつは、火をつける際爆発するので危険であるということです。この2つの漠然とした情報から、他の動物達は蝋燭の前で右往左往しなければならなくなっていきます。
 というのも、私達は当然花火というものに対して、どういうものなのか、またどうのように扱えば危険なのかをある程度の知識として持っているため正しく扱うことができます。しかし、この作品に登場する動物たちは花火に対して猿からの漠然とした情報しか持っておらず、具体的にどのように美しいのか、またどのように危険なのかを一切知りません。ですから彼らは、蝋燭に火をつけたものの、それを恐れるあまりかえってその火を見ようとはしなかったのです。

2012年6月21日木曜日

普請中(修正版)

ある時、日本の官吏である渡辺は普請中のホテルにて、あるドイツ人の女性を待っていました。その女性と渡辺とは、かつては男女の関係にあったようなのですが、彼は彼女に対してどういうわけかあまり興味を持てない様子。そしていざ女性がきても、渡辺のこうした態度は変わることはなく、やがて女性は彼のこうした冷たさに傷つけられていくのです。

 この作品では、〈ある男の女性に対する冷たさが淡々と描かれて〉います。

 この作品は、渡辺と女性との関係を中心に描かれています。かつてドイツの女性と付き合い、再会を果たそうとしている渡辺ですが、上記にもあるように、彼は自分でも驚くほどに「冷淡な心持」で彼女を待っていました。そしてこの態度は、彼女と実際に会ってみても変わることはありませんでした。
 一方の女性は、どこか渡辺との関係に対して期待している節があります。彼女は彼との話の最中に別の男の名前を出して嫉妬心を燃やそうとしたり、また「キスをして上げてもよくって」と甘い言葉で彼を誘惑しようとします。ですが、渡辺はこうした彼女の挑発や誘惑を冷たくあしらい続けます。そんな彼の態度に彼女は悔しさのあまり、「あなた少しも妬んではくださらないのね」と本音を吐露していまします。しかし、それでもやっぱり渡辺の態度は変わらず、彼女はそうした彼に傷つけられてその場を去っていってしまうのでした。

2012年6月8日金曜日

里芋の芽と不動の目ー森鴎外(未完成)

キーポイント
●里芋のより分けを手伝った増田と不動の目を焼いた兄の比較

兄は自分と対立するものを否定するが、増田は拘らなかった

結論にこだわっているか、結論にこだわっていないか
(己なんぞも西洋の学問をした。でも己は不動の目玉は焼かねえ。ぽつぽつ遣って行くのだ。)
(酸素や水素は液体にはならねえという。ならねえという間はその積りで遣っている。液体になっても別に驚きゃあしねえ。)

●お金に執着がない増田の性質
(金が何だ。会社は事業をするために金がいる。己はいらねえ。己達夫婦が飯を食って、餓鬼共の学校へ行く銭が出せれば好い。金を溜めるようなしみったれは江戸子じゃあねえ。)

2012年6月5日火曜日

飴だまー新美南吉

春のあたたかい日、わたし舟に2人の小さな子供を連れた女の旅人が乗っていました。やがてその舟には遅れて一人の侍が乗り込み、居眠りをはじめました。
 そして、しばらくすると2人の子供は飴を欲しがり、手を出してきました。ですが女は飴玉をひとつしか持っていません。しかしそんな事情などは知らずに、子供たちは出したてを引っ込めません。この儘では、眠っている侍が起きて怒ってしまう。そう考えた女は子供たちをどうにかなだめようします。しかし、子供たちはだだをこねるばかり。やがて子供たちの騒々しさに今まで眠っていた侍がとうとう目を覚まして刀を抜きはじめました。さて、一体親子の運命はどうなってしまうのでしょうか。

 この作品の特徴は、〈侍に悪い印象を持っていたが故に、かえってふとした親切がより良い印象となっていく読者の特性〉を生かしているというところにあります。

 その後、この侍は女の予想通り彼女達に斬りかかったのではなく、ひとつの飴玉を2つに分けてやります。そして、侍は再び眠りにつくという場面までが描かれています。ここまで作品を読んでみると、多くの読者はこの侍に対して強く、良い印象を持つことでしょう。ですが、私達は何故ほんのささやかな親切をしただけの侍に、強い印象を持ったのでしょうか。
 例えば、これが薬屋さんや百姓であったなら話は変わってくるはずです。恐らく女は妙な緊張感を抱くことはなかったでしょうし、そうなれば読者たる私達も、そのような親切に少しも関心をよせなかったでしょう。つまり私達が侍に対して強い印象を抱いているのは、彼が私たちの印象を悪いものから良いものへと大きく揺れ動かしたからに他なりません。侍が侍だったからこそ、私達は彼に強いを持っていったのです。

2012年6月3日日曜日

普請中ー森鴎外

文明開化の時代、ある時渡辺は、普請最中のホテルにてドイツ人らしき女性と再会を果たした様子。その中で、女性は渡辺に対して気のある素振りを見せていますが、渡辺の方はそれに一切応じません。そんな渡辺の様を見て女性もやがては諦め、新たな関係を築いていくのです。

 この作品では、〈一度別れた男女が、新たな関係を当時の時代と共に築いていく様〉が描かれています。

 この作品はタイトルの通り、日本が鎖国をやめて外国の文化を取り入れて立てなおしている頃に描かれています。そしてそれに合わせるかのように、この作品に登場する渡辺と女性の関係もまた、一度は壊れたものの、新たな関係を築いて行っている様子が描かれています。この2人の関係というものはまさに、当時の時代を象徴したものと言っても過言ではないでしょう。