2013年5月31日金曜日

人を動かすーD•カーネギー

  あなたが上司や部活のリーダーなど、人を先導する立場に立った時、或いは自分とは違う立場の人間と意見を交わしている時、部下がなかなか自分の言葉を受け 入れてくれず困ってしまった、話し合いが感情的な口論へと発展していってしまったという経験はないでしょうか。かく言う私自身も、昔大学のサークルで副部 長をつとめていた時に、部長と部活の運営について話していたにも拘らずどういうわけか激しい口論になってしまったこともありますし、現在でも似たような悩 みを抱えていました。
  と言いますのも、私は現在介護士として暮らしの生計をたてているのですが、ある利用者さんが私を含めた職員の誘導を促す言葉(私たちの世界ではこれを「声 かけ」と呼んでいます)をなかなか聞き入れてくれない時があり、その方に右へ左へ左へ右へと振り回されていたのです。半ば途中でその方に振り回されること も仕方がないのでは、と考えてしまうこともありました。
 しかし私は問題を客観的に観察し、「声かけ」に工夫を凝らすことで少しずつ問題を解消していきました。その方自身も(私はその場にいる限りではありますが、)今ではより穏やかな毎日を過ごしているように思います。
 ところで私が上記の問題に対して解決していった過程には、今思えばこの『人を動かす』の一般性が大きく横たわっていたのです。そこで今回は、若輩者の数少ない経験を踏まえながら本書を論じていきたいと思います。

 はじめに結論から言いますと、本書では〈人に意欲的に動いてもらうよう、相手の欲求を満たす〉と言う事が論じられています。

  この一般性というものは、フローレンス•ナイチンゲールの『看護覚え書き』の一般性にならい、抽出しました。この著書は彼女の看護経験から看護士が何を 扱っているのか(対象論)、それをどのような状態にもっていくのか(目的論)、またどのようにそうするのか(方法論)、という看護のあり方を一般化し、そ れに基づいて衛生看護を中心とした方法論が論じられています。そしてその一般性を下記に記しておきました。

〈生命力の消耗を最小にするよう、生活過程をととのえる〉

 次に私はこれらを対象論、目的論、方法論に分け、この形式を本書に適応させていったのです。

対象論→生命力
目的論→消耗を最小にする
方法論→生活過程をととのえる

対象論→人
目的論→意欲的に動いてもらう
方法論→相手の欲求を満たす

  ここで私が読者の方々に注意して頂きたいのは、この対象論にあたる「人」というのは人類すべての人々を指している訳ではありません。本文に「およそ人を扱 う場合に、相手を論理の動物だと思ってはならない。相手は感情の動物であり、しかも偏見に満ち、自尊心と虚栄心によって行動するということをよく心得てお かねばならない。」(p.28参照)とあるように、理性的な人々は対象としておらず、感情的な人々、ごく一般的な人々を対象として書かれているのです。
 そして私が携わっている利用者も、否、特に心身の崩壊が目に見えはじめている彼、彼女らは、通常の人々とは違い、理性による抑制がきかず、より感情的で落ち着いて考える事ができない人々と言わざるを得ません。
 
 次に、こうした人々に私たちはどのようになって貰いたいのか、つまり目的論について考えていきましょう。安直にタイトルのみを見れ ば、「動かす」ということに終止してしまうます。しかし本書には他にも、「人に好かれる」、「人を説得する」、「人を変える」といった同じ概念の項目があ る事は見過ごせません。そしてこれらの項目は各その中にある章を見て察するに(笑顔を忘れない、心からほめる、議論をさけるなど)、方法論の束になってい るようなのです。またそれらは人に強制していない、結果的に他人が自分たちの思惑通りに動いた、誰かの意思によって動いているのではなくその人の意志で決 定し動いている、という点で共通しています。こうした点から、本書で述べられている目的 というものは、相手に「意欲的に動いてもらう」ことにある、という事が理解できます。

  ところが現実はなかなかそうはなりませんね。何故なら私たちの要望の中に、相手が不快に感じたり相手の立場や環境がそれを拒否させてしまったりするからな のです。本文の中にも、ショップ店員という立場から返品お断りを客に厳守させようとする女性や、こちらの強制的なもの言いに言う事を聞かない子供などが登 場します。
  私の場合もやはり同じでした。職員という立場から、私たちはその方につい強いもの言いで強制したり、こちらの都合ばかりを相手に述べてしまっていました。 ですから結果的にその方はほんらい私たちがその方に望んでいる姿を拒否するばかりか、一番望んではいない行動(他の利用者を非難する、暴言を吐くなど)を とっていくのでした。

 ではこれらの人々をどのように目的どおりの人に近づいてもらうのか、その方法について考えなければなりません。それは本文に明確な形で記されてありました。

「人を動かすには、相手の欲しているものを与えるのが、唯一の方法である。」

  今思えば、私はこれを読む以前に、問題の利用者さんに自然とそれを行っていたのです!まずその方が何を望んでいるのか、冷静に日頃の台詞を考えノートに書 き出しました。次に相手の不快な感情を起こさせる言葉は極力さけるように努めていったのです。例えば、「どうしてそういう事をするんですか?」や「私たち のいう事をきかないからそうなるんです!」といった台詞がそれに該当します。
そ して相手に自分がその方を気にかけている事を言葉や仕草で表現していきました。これは本文で言えば、1-2「重要感を持たせる」にあたります。その方は読 書と映画の話、家族の話が大好きでしたので、私は興味ありげに何度も同じ話を投げかけました。途中自分が話に飽きないように、質問の内容を変えたり、話す 感覚をあける工夫をしたこともあります。これは、2-1「誠実な関心を寄せる」の項目にもありました。このように私はあらゆる方法を尽くして相手の欲求を 満たし、現在ではお互いが不快ない関係を築けていけています。

 人を動かす為には、ただ自身の望みを強要するのではなく、逆に相手が自分に何を望んでいるのかを知り実行する事こそが重要だったのです。

1 件のコメント:

  1. バックリンクでコメントしました。

    なかなかの力作です。
    介護の具体例についてより詳しく聞きたいところです。

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